劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~ 感想

f:id:jeronimoth:20190419144120j:plain

制作:京都アニメーション 配給:松竹

  京都アニメーション制作「響け!ユーフォニアム」シリーズの完全新作映画『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』が2019年4月19日に公開を迎えた。
本記事では原作「響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章」以降のネタバレも含めた感想を記載する。

 

 

原作とアニメのスパイラル構造

 本シリーズは原作が並行して制作されているアニメから多大な影響を受けているのが特徴である。2巻以降が書かれたのはアニメ1期の制作があったからであり、久美子二年生編である第二楽章が書かれたのも2期が好評だった結果を受けての事だ。

 影響の例を挙げるなら原作では描写されなかった部員がアニメ版オリジナルエピソードで大幅な設定の肉付けが成され、それを踏まえた上で以降の原作に登場させるといった事がある。
 今度はその原作がアニメ化される訳で、この様なスパイラル構造を持っているのが特徴的と言えるだろう。

 メディア間の螺旋構造で良い影響を及ぼし合いながら進化し続けてきているので、筆者はこのシリーズの愉しみ方としてアニメだけor原作だけという触れ方は勿体ないと感じる。

 

大幅に増した恋愛描写

f:id:jeronimoth:20190419153404j:plain

 原作の第二楽章では3本のストーリーラインが存在する。
 「久美子と奏と夏紀のユーフォニアムパート」

 「久美子と秀一の恋愛」

 「希美とみぞれの話
 この3つを大筋としてストーリーが同時進行で語られている。
 アニメではこの内「希美とみぞれの話」のみを切り取って独立させ「リズと青い鳥」として映画化させている。
 今回の誓いのフィナーレで消化すべきストーリーは残りの2つになる訳だがここで一つ問題がある。
 原作では短編集「響け!ユーフォニアム: 北宇治高校吹奏楽部のヒミツの話」の中の1本「とある冬の話」で久美子と秀一は正式に付き合う事になる為、時系列としてその後にあたる第二楽章では二人は恋人関係にある。
 問題は原作の一期二期総集編でも恋愛関連のエピソードを大幅に省略してきた事だ。
 第二楽章において久美子が秀一との距離感や恋人としてどう振る舞っていいのか悩むというエピソードの積み重ねは今後の展開にも関わる非常に重要なファクターの一つである。
 当然アニメで描写してこなかった事をあった事にする訳には行かない為、必然的に誓いのフィナーレでは冒頭で強引に二人が付き合うエピソードを挿入するか完全に恋愛関連をカットしてしまうかの二択の状態であった。
 結果としては前者が取られた。
 

 本作で久美子が恋する女の子として描写されたのは新鮮であり自然だ。TVシリーズでは幼馴染として秀一に対し家族同然の想いを抱いていて声のトーンが完全に家族に接するそれだった。それが一変し今作では恋人としての距離感に変化するのである。音声が存在するアニメならではの演出だ。

 これは物語の最序盤から秀一に対し恋心を抱いていた原作では不可能だった変化のさせ方でもある。筆者はTVシリーズが恋愛描写を削っていた事にネガティブな感情を抱いていたが今作での距離感の変化の演出により一気にポジティブな方向へひっくり返ってしまった。

 
 また、久美子の恋愛に気を回す麗奈が秀一へ絡むシーンが原作から追加されたのは良改変と言える。原作の最終楽章でこの二人は部活の幹部として接点が増えたので二年生時点での絡みが描写されたのは人物像の厚みが増し有意義だ。本作で筆者が最大に評価したいポイントである。

一本の映画として観た場合ダイジェスト感が強い

f:id:jeronimoth:20190419153633j:plain

 本作は原作二冊を100分に纏め上げる事を最大の目的としている様に感じられた。
 ミクロな視点で二人の少女の心の機敏を描く事に徹底した「リズと青い鳥」とは対照的に本作は久美子視点で吹奏楽部全体を俯瞰するマクロな視点だ。
 冒頭4月の新入生入部から関西大会までの原作の主要なエピソードを怒涛の勢いで回収していく。場面の転換が非常に早くカットが変わる度にジェットコースターの様に話が進む。この為なんとなく元々のTVシリーズがあってその総集編を観ているような気分になった。

 本作を純粋に一本の独立した映画作品として見た場合構造が歪だと感じる。
 この作品で一番肝心の要は「久美子と奏と夏紀の関係性」の筈だ。
 本来ならこのエピソード集中して話を積み重ねてクライマックスを用意すべきなのだが、本作は他の話も同時進行している影響でやや散漫な印象を受ける。

f:id:jeronimoth:20190419153828j:plain

 100分の映画として纏める為に夏紀と奏の衝突の機会が原作から減らされているのでクライマックスであるオーディションの場面は唐突に見える。サンフェスの会場で鈴木美玲が自身の抱える問題を吐露する場面も同様だ。

 前提として心理描写の積み重ねが足りていないためキャラクターが脚本の都合だけで動いている印象を受けてしまうのである。

 あくまでも個人的な意見としては加部友恵など本筋に絡まないのサイドエピソードは完全に切り捨てて、奏関連の描写に集中しても良かったのではないかと思う。

 また、この映画内では意味を為さない伏線が多かった事も目に付く。
 月永求が自身の呼ばれ方に拘る理由や、あすかの絵葉書等は如何にも意味有り気に描写されつつも今後への布石として未回収のまま残される。
 これは原作第二楽章自体に起因する問題だ。元々原作自体が最終楽章への伏線を多く張っている作品なので正確にアニメ化したらこうなったというだけの事なのである。

圧巻のコンクールシーン

f:id:jeronimoth:20190419155854j:plain

 関西大会での演奏シーンは圧巻の出来だ。作画のリソースをここへ注ぎこんだのは疑う余地がなく京アニの全力投球だ。

 TVシリーズ二期の第五話や総集編映画「届けたいメロディ」でも演奏シーンは力を入れていたが、今回は輪をかけてレベルアップしている。どう考えても地味な絵面にしかならなそうな演奏場面を毎回ここまで躍動感たっぷりにしてしまうその表現力は驚嘆に値する

 また映画「リズと青い鳥」とリンクするシーンが映画各所に存在し、あの世界と確かに繋がっていると感じられる事が嬉しいポイントだった。

総評

 遂に「リズと青い鳥」が通しで演奏されるコンクールのシーンや久美子と秀一の恋愛描写はTVシリーズを追ってきたファンなら必見。一方で原作を駆け足で消化してしまった事による粗がやや目立つ。

プライバシーポリシー お問い合わせ