Summer Pockets レビュー Keyの現代的アップデート

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メーカー:VisualArt's 機種:PC

 

 

私にとってのkeyは健在だった

 

今更だがkey制作の本作について記事を書く。今春にはCS機への移植も決まっている。今までのkey作品からするとあり得ないフットワークの軽さだ。

昨年夏に本作が発売された当時はそれ程プレイに乗り気ではなかった。歴代key作品はKanonからRewriteまでをプレイしそこで一旦気持ちに区切りがついたと感じたからだ。

そんなわけでそれ程期待していた訳でもなく発売日を向かえ何となくプレイしたのだが、結局のめり込んで三日で最後まで遊んでしまい。のめり込みすぎてその後三日間大きな喪失感を味わった。

結論を言うと最高に楽しめた。私にとってのkeyは健在だったのである。

 

ちょうどいいボリューム

本作で評価したいのはボリュームがちょうどいいということだ。

CLANNAD以降のkey長編作品はゲームのボリュームのインフレを起こしプレイ時間は増大した。50~80時間はかかり。さすがに社会人が纏まった時間をとるには厳しい物量だった。

また物語の出来も各ライターで差があるという状況だった。最後までプレイすれば感動出来るのだがそこへ行くまでに大して面白くもないシナリオを読まなければいけないという事態が頻発した。

本作はゲーム全体で20~30時間程度と以前に比べるとスマートに纏まっている。

かつてkey等の美少女ゲームに熱中していたが、一旦離れてしまっていた私にとってこのボリュームはちょうどよく、key作品を現代へ出すとしたら長すぎず短すぎずのベストな物量であると感じた。

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※以降は本作の核心部分へ触れている為未プレイの方はブラウザバック推奨

 

 

 

 

第一部

第一部の各ヒロインごとの個別ルートは夏休みをテーマとした短編として高水準で纏まっている。過去作ではシナリオ的に欠陥があるルートが何本か紛れているのが恒例だったのでこれは快挙と言っていい。

しろはルートは初々しい二人の恋愛を微笑ましく描写しながらも、明確にグランドルートへの伏線が提示され期待が高まる。

鴎ルートは巧妙なミスリードへの誘導によって何度か予測をひっくり返される。

蒼ルートは担当ライター魁氏の持ち味が存分に発揮され、シリアスとギャグのバランスが良い。

個人的には紬ルートは泣かせに入ってからの展開が冗長だと感じたが許容範囲内ではある。中盤で起こるホラー展開が興味深かったのでもう少しそちらを突き詰めてほしかった。

 

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鴎ルートは背景で海賊船の差分が無いのが気になった

第二部

第二部ALKA編からがkeyの本領発揮だ。恒例のグランドルートでうみの為に始めた親子ごっこが次第に島の伝承や呪いなどを絡めたSFとして発展していく。

本作は所謂ループ物である。未来で主人公羽依里のネグレクトに近い何かが起こる→うみが母親の面影を追い求め島へ行きタイムリープする→過去へ戻ったうみの影響で羽依里としろはが惹かれ合う→うみが産まれ、しろははその過程で死ぬ→羽依里のネグレクト

という無限ループ構造だ。そもそもタイムリープは何故発生するのか、力はどうして継承されるのか、ループをどうやって解決するのかと謎が次々出現しぐいぐい引き込まれる。

過去作でもループ要素はあったのだが(AIRCLANNADも厳密にはループではないが)あくまでも物語を成立させるために存在していて、ここまで物語の軸になる事はなかった。SFとして物語の先が気になるあまり、本作のクライマックスの泣きポイントでは泣けなかった。感動的ではあるのだがそれどころではなかったのである。

ALKA編は物語の速度を保ったまま怒涛の勢いでEDに流れ込む。EDテーマ「羽のゆりかご」の相乗効果も相まって非常に盛り上がる。

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第三部

第三部Pocket編で全ての謎が明らかに!と思いきやそうでも無い。ループの元凶であるしろはの祖母や母親に関しての言及は少なく、しろはとうみの心の交流が主題となる。

本作は最終的に親子愛という閉じたテーマへ帰結する。SFとして広げた風呂敷の畳み方へばかり興味が行っていたので、第三部は過去という新たな舞台を用意した割に話を広げたいのか畳みたいのかどっちつかずに感じた。

しろはの母親が身投げする理由付けが弱くどうしても理解できなかった。力の継承を回避する云々とのことだが結果的に最悪の事態を起こしているし、その辺りのエピソードはさらっと流される。

そもそも本作のループは解決が不可能である。うみが産まれる時点でその後の悲劇的な未来が決定していて、悲劇的な未来があるからこそうみが産まれループする。典型的な鶏が先か卵が先かのパラドックスを起こしている。

だからこそその解決を期待していたのだが、バタフライエフェクトシュタインズ・ゲート等でよく見たオチになってなってしまったのは弱く感じる。

とはいえ最後のスタッフロールで本作のOP曲「アルカテイル」を流した演出は素晴らしかった。これから無限の可能性の未来がひろがって行くのだと感じ取れ、プレイヤーをしっかり現実へ帰してくれる。

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本作最大の問題としてよく挙げれられているのがkey過去作のエピソードの焼き直しが多いという点である。これは事実で、特にしろはが出産時に死ぬのはもろにCLANNADの渚のエピソードそのままでありオマージュで済まされるレベルではない。オリジナルの新作として捻りが足りないと感じる。

 

総評

9.0/10

Keyの現代的アップデート作品として高水準で纏まっているが、ここまでの焼き直しが許されるのは今回限りだろう

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