ファイアーエムブレム 風花雪月 レビュー 満を持して登場した最新作は紛れもなくファイアーエムブレムだ
ファイアーエムブレムシリーズのファンの中では度々論争が巻き起こる事がある。
それはシリーズの最高傑作はどの作品であるかだ。
「聖戦の系譜」、「烈火の剣」、「蒼炎の軌跡」、「新・紋章の謎」辺りの作品が候補に上がりやすいだろうか?どれも甲乙つけがたい素晴らしい傑作だ。
今後この論争は更に混迷を深める事になりそうだ。
最新作「風花雪月」の登場によって。
新作としては「if」以来4年ぶり。シリーズ作品としては「Echoes」以来2年ぶりとなる最新作。
開発をコーエーテクモゲームスへと移し満を持して遂にシリーズ初のHD機での発売となる。
ストーリーとシステムの統合
特筆すべきはストーリーとゲームシステムが極めて合理的な形でスマートに統合されている事である。
士官学校が舞台である事。主人公が教師を務め、生徒の指導を行う事。5年後に戦乱へ突入する事。
これら全てはストーリーテリングの手段であると同時にゲームとして違和感なく必然的な形で組み込まれている。そしてそれらはプレイヤー自身のナラティブへと直結する。
第一部の学園編で生徒達と共に過ごし、部隊としてマネジメントを行っていく。その過程で生徒達一人一人のバックグラウンドや彼らが抱えている問題が明らかになっていく。そして感情移入したキャラクター達と共に戦乱の時代である第二部戦争編に突入するのである。
立体構造のストーリー
3本(+1本)のルートを遊ぶ事によって初めて全容が掴める構造となっている。一周辺り40時間前後かかることを考えればこのボリュームは常軌を逸していると言って過言ではない。
「エーデルガルト」、「ディミトリ」、「クロード」の級長3人を主軸にしたストーリーはそれぞれの思惑や国家間の政治的な背景が複雑に絡み合いながら進行していく。
プレイヤーは各ルートをプレイする度に本作の世界を解きほぐすように理解を深めていくのだ。謎の提示の仕方や引っ張り方が巧みで広大なフォドラを舞台とした物語へぐいぐいと惹き込まれた。
個性豊かなキャラクター達
今回はクラス(組)という括りがあり、その中での交流がメインとなるためキャラクターの関係性が活き活きとしている。
支援会話はキャラクターの掘り下げだけでなく貴族間の関係性や政治の話といった世界観の解説も担っている。ナレーションやゲーム内の文献だけで済まされるのではなく、その世界を生きるキャラクター目線で語られるので膨大な登場人物の関係も頭に入りやすい。
また近年のシリーズでは男女間では必ず恋愛が絡む関係でどうしても会話内容に無理があった問題も解決している。
常にプレイヤーへ動機を与え続けるクラスチェンジシステム
今作ではクラスチェンジを行う際に資格試験という形で一定以上の技量レベルが求められるのでそれを突破出来るように計画を立てながら進めていくこととなる。
常に目的意識を持って進行する為、ダレることが少なくなった。
上のクラスへ行けば行くほど能力値が上がりやすくなるので基本的にはどんどんクラスチェンジさせるべきなのだが、下位クラスの習熟度を上げることによって得られる兵種マスタースキルが非常に強力なのでこれを習得してからに次に進むのかどうかといった選択も悩ましくて良い。
捻りを加える魔獣戦
障壁の存在や範囲攻撃、HPバーが複数あるといった特殊な戦闘となる魔獣戦は計略や戦技のシステムが最も生かされるシチュエーションだ。
障壁を破って一気に畳み掛けるか範囲攻撃から逃れる為に一旦体制を立て直すかといったその場その場での的確な判断を求められる。ゲームのテンポの変化に一役買っている。
手強くないシミュレーション
かつて「トラキア776」がギリギリの詰将棋の様なバランスを維持できたのはゲームのシステムが非常にシンプルだったからである。
プレイヤー側の選択肢が増えシステムが肥大化していくにつれこのバランスを維持するのは困難になっていく。特に近年のシリーズでは終盤のバランスが大味だ。
本作は発売時点での最高難易度であるハード+クラシックモードを選択しても歴代シリーズのプレイヤーであればぬるく感じるであろう。戦略シミュレーションとしての面白さがもっと欲しかった。
ゲームが進むにつれて火力がインフレしていくので、反撃を受けない遠距離から一気に近寄り一撃で敵を葬る戦略が常套手段となっていく。
必然的にドラゴンマスター等の地形無視で移動出来るクラスが優遇され、足が遅いクラスには仕事が無くなっていく。
折角多くのクラス(職)があるにも関わらずユニット間でのロール(役割)の差別化が図れていないのは惜しい。
周回前提のゲームと食い合わせが悪い散策パート
世界観の理解やキャラクターへの感情移入といった側面では大きく貢献しているが、内容自体ははおつかいに終始する為周回を重ねる度に冗長に感じてくる。もちろんスキップすればいいだけなのだがアイテムや名声値欲しさに学園を駆け回る工程は少し何とかしてほしかった点だ。
本作では全てのシナリオで「ガルグ=マグ大修道院」が本拠点となる。ゲームの都合上仕方なかったのは理解出来るが、拠点を動かせない都合によってシナリオ自体が制限を受けているのは頂けない。第二部では事態が切迫しているにも関わらず敵陣営の重要な拠点を落とす度に毎月本拠地に帰還するのでかなり悠長に感じてしまう。第二部では蒼炎の軌跡の様な拠点システムを用意すれば代替が可能だったのでは。
総評
89/100
重厚なシナリオ、ユニットの育成の奥深さ、リプレー性の高さ等々本作は紛れもなく現行機に相応しいファイアーエムブレムだ。